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午後五時五十分の屋上にて

Category: 小ネタ  

三話ー そのに!


今気付いたが今までに拍手下さった方ありがとうございます!







 




 赤鴉が言うには、この学園の誰もが気付かないうちに『変に無邪気』になっているという。ただ人と人の距離が近いだけなら、それは微笑ましいものだろう。しかし『変』なのだ。
 例えば、自分と大して縁のない新入生に対して、学生生活に慣れるまで延々と気を遣い続ける上級生と教師というのは、果たして一般的なのか。十代の青春に忙しい学生や、そんな人間の面倒を何十人と見なければならない教師は、そこまで模範的に親切でいられるものだろうか。その親身な態度の真意は確かに善意か。

 そこまで考えて楡崎は「見張られている」という言葉にゾッとした。

 この学園は何か変だ。



  カツ、カツ、カツ、カツ




 2人が黙り込んだところで、教室の外から足音がきこえてきた。
 ギョッとして楡崎と赤鴉は教室のドアを見る。

「なんだ、君たちまだ残っていたのか」
 威圧するような低い男性の声と、背の高いシルエット。

「…水野宮先生」

 楡崎にとっては初対面の、中等部主任・水野宮だった。神経質そうな佇まいと、きっちりと撫でつけたオールバック、そして銀縁メガネという外見の男性教諭だ。その格好によるお堅い印象のおかげで年齢を上に見られがちだが、これでも四十路前である。

「先生こそ、どうしてこちらに?今日は授業、無いはずですが」

 楡崎がトーンを落とした、物静かな声で応じる。これが楡崎の外面用の声音と話し方だ。
 楡崎の物怖じしない切り替えしに、水野宮は少しばかり目を見開き、すぐに教師の鉄面皮に戻る。

「いや…窓から人影が見えたものでな…。今日は業者も誰も来ないはずだが、と。で、君たちこそ、ここでいったい何を?」

 自分の用事については口を濁し、赤鴉達が教室にいる理由について質問を重ねてくる。
 さらに、じろじろと二人を見下ろす視線に、楡崎は嫌なものを感じ取る。

(なぁに、この教師…不純異性交遊でも疑ってるわけ?)
 この教師はと堅物を思わせる外見だが、もしや見た目通りの頭の固さなのだろうか。

「夏休みの、学校の改善点についてのレポートを二人でしようと思っているんですよ、水野宮先生」
 赤鴉が冷やかな、教師からすれば生意気な口調で答える。この人を寄せ付けない素っ気なさが、赤鴉の他人用の仮面だ。
 水野宮はそれを聞いて、何?と眉根を寄せる。

「夏休みの課題に、この学園の改善点を調べるレポートがあるじゃないですか。私、まずはこの学園の歴史について調べようと思って。でも、いざ歴史を調べるとなると、幅広くてとても一人では出来そうに無かったものでしたから。楡崎君に手伝って貰ってるんです」

 そう言って赤鴉は生徒会の人に聞いてみたり、図書館にも行ったりしてみたんですけどね、等々、いけしゃあしゃあとレポート課題についての苦労話を積み上げていく。
 水野宮それらを「ふむ」と「ほう」とか、何やら感心したように相槌を打っている。そして最後には、「なるほど、感心だな」と、それはもう機嫌良さげに深く頷く。

(おいおい…)
 先ほどまでの疑わしげな態度とは打って変わって、熱心な聞き入りよう。水野宮はかなり純粋な、悪く言えば騙されやすい人物らしい。楡崎は赤鴉の一瞬のしたり顔を見逃さなかった。どうやら、彼からできる限り情報を得る腹積もりらしい。

 そんな事とは知らず、水野宮一人得心がいったように頷き続けている。

「そうか、レポート課題のためにチームを組んだか。この課題は大体の者が、自分たちの学校生活での不満をそれらしく書いて終わるからな。わざわざ資料探しや、裏付けなんて面倒だと言う事だろうな。学生のうちに時間をかけて物事を調べる、ということも貴重な経験だというのに。いや、しかし君たちは偉いな。うん、存分に調べるといいよ」

 さらに赤鴉と楡崎に激励まで送る。
 そんな様子を、「うわ…この人チョロ過ぎ…!?」と水野宮を見る楡崎とは別に、赤鴉はスラスラと言葉を続ける。

「ええ、頑張ります。それでね、先生。今、私たち図書館へ行って来たのですけれど、卒業アルバムが無いんです」
「何?」
「いえ、12年前のアルバムまではあるんです。でも、それより前のものが見つからなくて」
「それは、いや、なんだ。よ、よく探さなかっただけじゃないか。古いものは奥に仕舞っている、とか」

(あら?)

 12年前、という単語が出てきた途端、水野宮の歯切れが悪くなった。目もせわしなく動いている。
 アルバムの件は、午前中に生徒会副会長から事情は聞きだしている。確かアルバムの仕様が各々専用にカスタマイズするタイプの高価なアルバムが、12年前に生徒全員が無理なく購入できる価格の全員共通の大量印刷タイプに変わったためだ。
 旧式のアルバムは個人によって内容が違うため、図書館で保存するには向かない、という判断が下されたものとばかり思っていたが、もしや本来の理由は違うのだろうか。

 それならば、水野宮は12年以上前のアルバムが無いことを隠そうとする理由は、件の『生徒会の倉庫』に通じるかもしれない。
 
 七不思議のひとつ、『生徒会の倉庫』。12年以上前のアルバムがあるかも知れない倉庫。何故七不思議に数えられるかを楡崎はまだ聞いていないが、あるかどうか怪しい倉庫というだけで十分にきな臭い。

そう思った楡崎が赤鴉を一瞥すると、赤鴉も楽しげな視線を寄越した。徹底的に聞き出すつもりだろう。

「そんな適当な探し方してませんよ先生。私たち、図書館の隅から隅まで見て回ったんです。本当に、棚一つ一つの上から下まで全部。返却台も、貸し出し中図書の表も、図書室で他の人が見ていないかまで、全部見たんです。それで私たち、もしかしたら他に保管場所があるんじゃないか、って思ってるんですけど、先生何か知りませんか」
「いや、その、」
「それとも、12年より前って学校はアルバムを作ってなかったのかしら。それともアルバムを作れないくらい、お金がなかったとか。そもそも、アルバムが欲しいって思う人がいなかったとか」
 絶対に違うと分かっている憶測を口にするのは、水野宮を挑発するためである。
 分かりやすすぎるのかも知れないが、実直な中等部主任にはよく効いた。

「いや、決してそんなことは。ああ、でもそう言う生徒も少なからず…。いや、…下手に隠し立てしては君たちに不安を与えるだけかもしれないな…」
 そんな独り言を呟いたのち、水野宮は諦めたようにため息をついて話し始めた。その内容は楡崎と赤鴉の予想とは異なり、
 
「今はもうそんなことは無いが…この学園はかなり…そのあまり落ち着いてなかったんだ。なんというか、落ち着いて勉強や部活ができる、という雰囲気では無かった期間があってな」

 水野宮の話を要約すれば、以下のようなことらしい。
 
 10年ほど前、千五百学園は恐ろしく荒れていたのだという。
 部活動はほとんど行われず、皆が皆暴力と保身に忙しく、教室も寮も張りつめた空気で満たされ、校則も教師でさえ見向きもされないような時期があった。
 
 千五百学園は山の上の小さな学園だ。
 一学年一クラスという体勢の中、一度人間関係に淀みができてしまうと、他校のようにクラス替えでもって新しい空気を送ることができなかった。
 そもそも狭い学園の中では、喧嘩した相手と翌日も同じ場所で朝食をとり、授業を受け、同じ道を通って同じ建物へ帰って眠るのだ。おのずと彼らの間の空気は重く、それは周りの人間関係にもヒビを入れていく。
 加えてこの学園の『噂好き』という性質は事態を悪化させる。
 自分が何気なく呟いた言葉が知らぬところで曲解され、全く別の意味としてまことしやかに囁かれていたりするのだ。
 いつ誰から難癖を付けられるか分からない。どうしてそうなったかも分からない。
 そうして火種がそこかしこに生まれ、学園は軋んでいった。
 
 ある意味での救いは、人同士の大きな暴力事件にまでは発展しなかったからだろうか。
 無論学校の備品が破壊される、盗まれる、小競り合いで殴り合うなどは日常茶飯事だったが、誰かが救急車で病院に運ばれた、という記録は残ってないらしい。
 せいぜい小火騒ぎで消防車が来たことが一度あるだけだ。まあ、それも本来は「事件」なのだが、当時の学園ではあまり騒がれた様子が無かった。恐らくそんな感覚も麻痺していたのではないか、というのが水野宮の予想だった。


 そして何故、人同士の喧嘩が少なかったかと言えば、「誰が敵かわからない」「敵が多すぎて動けない」という単純な理由だ。


 あまりに人同士の物理的距離が近いこの学園では、『噂好き』という性質の素地として、誰が誰の知り合いでもおかしくはないし、誰が何の話を聞いていてもおかしくないという環境がある。誰が誰を貶め、どのような経路で誰に伝わったかなど正確に知るのはほぼ不可能であり、つまりは誰が誰をどう思っているかなぞ誰にも予想できない状態だった。

 誰が敵かわからない。誰に怒りを向ければいいのかわからない。

 そんな疑心暗鬼が渦巻き、誰も迂闊に動けず、結果としてただひたすら周りを警戒し続け、疑い続けて、精神が荒んでいく。


 「まとも」な学園にするのは長い時間が必要だったという。
 

 学園の暗黒時代と呼ばれる日々だ。
 
 

 話を戻そう。

 千五百学園では13年前まで卒業アルバムは個人が申請して買う代物だった。
 個人の学生生活に焦点を当て、一人一人に合わせて写真を変えるソレは無論高価で、購入する生徒はごく一部だった。
 そして12年前にアルバムは全員共通のよくあるタイプに変更され、誰もが手の届く値段になった。
 それから学園でも保存用に一冊購入するようになった、というのが、13年以上前のアルバムが無い真相である。

 それを水野宮は十年ほど前の暗黒時代のためだと勘違いし、「下手に隠し立てしては君たちに不安を与えるだけかもしれないな」という発言に至った。
 決して『生徒会の倉庫』にアルバムが隠されているとか、そんなわけではなかった。


 「結局フリダシね」
 深い色の髪を手の甲で払いつつ、楡崎が気だるげに呟いた。
 七不思議に通じると思われた情報源が不発だったためだ。
 「聞き込みの厳しさって奴ね」
 「それって探偵じゃなくて刑事とかの厳しさじゃなくて…?」


 二人は今、学園施設で最も立地標高の高い展望台に向かっている。
 その道すがら、金網で閉鎖された道があり、その先は誰も行ったことがないとかなんとか。
 この学園の変電所や浄水設備管理施設といった設備は山の各地に散らばっており、森に分け入れば見慣れないコンクリートの壁に出会ったりする。
 その金網とやらは生徒のむやみな侵入を妨げるための物だろうが、怪しいところは片っ端から潰すのが王道だという赤鴉の主張により、2人は連れ立ってその金網封鎖された道に向かっている。

 夏の日差しに濃い影が2人を覆う。
 踏みしめる道は舗装されていないが、固く踏み均され雑草も生えていない。
 誰かが頻繁に通っている証だ。
 天文部か、はたまた管理の事務員か。それとも他にこの先の小さな展望台に用事のある人間がいるのか。

 それとも、あるのは天文台だけでは無いのか。


 楡崎は先走りする思考を止め、先をずんずんと進む赤鴉に話しかける。


 「ねえ赤鴉ちゃん。アタシ、あなたが言っていた『変に無邪気』の正体がわかったと思うわ」







 まだ続く!
 次で最後!





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 2015_07_02


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